更年期の物忘れ

更年期の物忘れとは

更年期の物忘れ
物忘れが更年期障害によるものかどうか、を判断することは非常に難しい問題です。 しかし、更年期が物忘れに影響しているといういくつかの事実があります。
  • 早期閉経した場合、物忘れが多くなる
  • 閉経した女性は、閉経前の女性と比較して、95%がよく物忘れをするようになる(※)
※ニューヨークメモリーヘルシーエージングサービスが発表した研究論文より

そのため、ご自身の物忘れが更年期障害によるものかどうかは正確には判断できないものの、 更年期障害の症状として物忘れが発症しやすくなっています。

ここでは更年期の物忘れについて、 症状、特徴、原因、解消方法などについて、紹介しています。

更年期障害の物忘れの症状

「物忘れ」は更年期に限らず、全ての原因、病気で症状に違いはありません。
そのため、症状のみでは更年期が原因の物忘れなのか、他の病気、原因による物忘れなのか判断することは非常に難しくなっています。

しかし、更年期の物忘れの最大の特徴は「短期記憶の問題」であることが多いことです。

この短気記憶は物忘れでなくとも、本来非常に短い時間しか保持されない記憶のため、 自動的に忘れてしまうという特徴を持っています。
しかし、更年期には、この忘れてしまう時間や頻度が、 以前と比較して短くなったり、多くなることが特徴です。

更年期の物忘れ症状
  • 物忘れまでの時間が短くなる
  • 物忘れの頻度が多くなる

更年期障害の物忘れの具体的症例
  • 鍵をどこに置いたか忘れた
  • ほんの数分前にしようとしていたことを忘れた
  • さっき外したペットボトルの蓋をどこに置いたか分からない

更年期による物忘れなのか、認知症なのかの判断

更年期の物忘れなのか、認知症による物忘れなのか判断することは難しいものの、 短気記憶障害以外に、 以下のような症状が現れている場合には、認知症の可能性が高くなります。

認知症の症状
  • 長期記憶の低下(記憶障害)
  • 新しい物事を覚えることができない(記憶障害)
  • 予定を立てることができない(見当識障害)
  • 時間を守れない(見当識障害)
  • 計画を立てても実行できない(実行機能障害)
  • 思考スピードの低下(認知機能低下)
  • 慣れ親しんだ作業も、例外が起こった途端できなくなる(認知機能低下)
  • 複雑なタスクを完了できない(認知機能低下)
  • 人格の変化(被害妄想、自信の喪失)

更年期の物忘れは認知症の前兆?

更年期の物忘れは、その後の時間の経過によって、認知症になることを意味しません。
ロチェスター大学医療センターからの研究によると、40~50歳に更年期の症状として物忘れが発症する人と、 晩年に認知症が発症する人の間には、なんら関係は見出されなかった、としています。

物忘れの更年期障害以外の原因

物忘れは、更年期障害やアルツハイマー病などの認知症の以外に、 以下の原因が考えられます。
  • 年齢
  • 不安・うつ病・ストレス
  • 薬の副作用
  • 甲状腺の問題
  • ビタミンB12欠乏症
  • 妊娠
  • その他病気

年齢

物忘れは老化の正常な反応です。
人は年を取ると、脳が萎縮し、記憶力が低下していきます。
多くの研究において、 年齢は、性別、教育、その他の要因よりも、物忘れに最も大きな影響を与えると、結論づけています。

この年齢による物忘れは、情報を思い出せないだけでなく、 情報の記憶を阻害することも大きな一因と考えられています。
特に短期記憶の年齢に伴う減少は、注意力の低下やワーキングメモリと呼ばれる脳の領域の減少など、 様々な理論があるものの、その原因は明確になっていません。

不安・うつ病・ストレス

更年期障害の症状である不安やうつ病、ストレスが、物忘れに影響します。 詳しくは、後述する「更年期の物忘れの原因」の欄で紹介しています。

薬の副作用

危険ドラッグや違法ドラッグなどは言うまでもなく、 処方箋で処方される薬の一部にも、物忘れを促す成分が含まれるものがあります。
物忘れを促す代表的な薬は以下の通りです。
  • 抗不安薬・抗うつ薬
  • コレステロール薬
  • 抗発作薬
  • パーキンソン病の薬
  • 高血圧の薬
  • 抗ヒスタミン薬
  • 鎮痛剤など

甲状腺の問題

甲状腺ホルモンの過少あるいは過剰分泌による 甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症は、認知症の症状が現れる場合があります。
甲状腺の問題はゆっくりと時間をかけて症状が現れるため、甲状腺の他の症状(肌の乾燥、便秘、体温の低下、月経不順など)が現れる場合、甲状腺ホルモンの分泌量を測ることで正確に検査できます。 甲状腺の問題に関しては、甲状腺機能低下症と疲労をご参照下さい。

ビタミンB12欠乏症

ビタミンB12の欠乏によって起こる悪性貧血は、物忘れの原因の1つです。
物忘れ以外に、貧血症状や舌炎、知覚障害などの症状が現れます。 ビタミンB12の欠乏が原因のため、治療にはビタミンB12の摂取が有効です。

妊娠

妊娠は記憶力を低下させます。
2007年に行われたジュリーDヘンリー、ピーター・Gレンデルらの実験によると、 妊婦と非妊婦で、 イベントベースの記憶(何をするか)に関する差異はなかったものの、 仕事の締め切りのような時間ベースの記憶力に優位な差があることがわかりました。
更年期のうち特に閉経前や閉経期は妊娠という概念そのものが失落している場合があるため、 注意が必要です。

その他病気

その他、脱水、頭部損傷や頭部外傷、難聴、鎌状赤血球症(遺伝による貧血症)、パーキンソン病、 統合失調症、多発性硬化症、感染症なども物忘れの原因となります。

更年期の物忘れの原因

エストロゲンの減少

エストロゲンには、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβタンパク質による脳の損傷から、 脳の神経細胞を保護する作用があります。
これは、既存の脳の神経細胞の存続を意味するだけでなく、 新たな脳の神経細胞の成長、産出にも影響します。

言い換えると、エストロゲンが減少すると、物忘れの進行を許すことになってしまいます。

血流量の減少

エストロゲンには、血管拡張作用があります。
エストロゲンが減少する更年期以降、女性の心疾患や動脈硬化が著しく増加することが知られていますが、 これは、エストロゲンが血管において一酸化窒素の産出を促し、 血管を弛緩させる効果があるためです。

特に血管性認知症(脳梗塞やくも膜下出血)のような脳への血流遮断だけでなく、 脳への血流減少は認知力や脳疲労と深く関わるため、エストロゲンの減少が、物忘れ、記憶力の低下へとつながります。

脳は、体の酸素の15~20%を必要とし、血液の供給に非常に敏感です。
脳への血流を増加させると、記憶力や注意力など認知能力を向上させる効果があり、 脳への血流を減少させた高齢者は、多くの場合、物忘れや認知能力の低下をもたらします。

更年期障害の症状(不眠)

更年期障害の症状のうち、ほてりや寝汗による不眠症や、イライラやうつ病による疲労・ストレスは、 記憶力の低下、物忘れに影響します。

睡眠には一日の情報を処理し、 新しい記憶形成を助ける働きがありますが、 UCバークレー大学の教授が発表した内容によると、 「質の悪い睡眠は記憶の定着、形成に影響するだけでなく、 物忘れなどにも影響する」としています。

また、2013年、カリフォルニアバークレー大学が行った研究によると、 20歳程度のグループと、60~70歳程度のグループに分けて単語のペアを記憶する実験を行ったところ、 脳と睡眠は相互に関係しており、質の悪い睡眠は記憶の低下に関係し、 深い睡眠時に得られる徐波が少ないほど成績が悪いことが分かりました。

更年期障害の症状(ストレス)

ストレスは物忘れに影響します。
2002年に行われた記憶におけるストレスの影響を調べた研究において、 55人の卒業生が4つのグループ(作業負荷とストレスをそれぞれ変えて)における記憶課題のテストを行ったところ、 ストレスと作業負荷が最も大きかったグループが記憶課題の成績が最も悪かった、という結果が出ました。

また、ストレスによって分泌されるコルチゾールは、 記憶の形成を防止し、記憶喪失を引き起こすことが知られており、 更年期障害のストレスや、他の症状によるストレスは、物忘れ、記憶力の低下を促します。

更年期の物忘れ・記憶力低下 防止対策

アルコール摂取の制限

アルコールの摂取量を制限します。
アルコールと記憶力に関わるいくつかの研究では、 頻度の少ない飲酒、摂取量の少ない飲酒は、健康に利益をもたらすこともあるとしているものの、 摂取量が多い場合、脳細胞が損傷し、 記憶喪失、永久脳損傷を引き起こす可能性があります。

禁煙

喫煙は脳の記憶力を奪うという、多くの研究があります。
スウェーデンストックホルムの心理学科大学で行われた25名の女性が参加した研究では、 喫煙者と非喫煙者で即時記憶課題のテストを行ったところ、 非喫煙者のグループは喫煙者のグループよりはるかに優れた成績でした。

また、ノーサンブリア大学の研究によると、 喫煙者と非喫煙者では、最大22%程度の記憶の差異があるとしています。

日常の小さなことを思い出す試験において、 喫煙群59%、現在タバコを吸ってない群74%、非喫煙群81%という結果になりました。

これは喫煙によって脳への酸素供給量が低下することや、 脳細胞そのものの死滅などによる影響と考えられています。

更年期の物忘れ、記憶力低下の解消方法

ホルモン補充療法

ホルモン補充療法は物忘れだけでなく、更年期障害の多くの症状に効果があります。

ただし、カリフォルニア大学で行われた、 認知機能改善におけるホルモン補充療法の効果を測る研究では、 ホルモン補充療法とプラセボ群の間に有意な差異はなく、 ホルモン補充療法は、認知症の防止、改善には効果がない結論づけています。

運動

運動による記憶力、認知機能の向上に関わる多くの研究成果があります。

カンザス大学で行われた高齢化による認知機能低下を探る研究によると、 65歳以上の女性に対して散歩の歩数と認知減少の関係を調査したところ、 6年後には、散歩の歩数が多い人ほど認知力の低下が少なかった、と報告しています。

また、ノースカロライナ大学やUCLA大学の研究によると、物理的な活動(=運動)への参加と認知能力との間に正の相関があるとしており、運動は脳への血流を増加させ、脳容積、ニューロンの形成を増加する効果があるとしています。

運動による効果については、 なぜ運動で疲労が回復するのかをご参照下さい。

脳のエクセサイズを行う

脳を刺激するエクセサイズを行うと、脳の働きを活性化し、物忘れを防止する効果があります。 このような脳のエクセサイズは、数独やクロスワードパズル、脳トレなどの演習が推奨されています。

栄養

脳への血流量を増やすイチョウ葉や、血液をサラサラにするオメガ3脂肪酸などは、 記憶力向上、認知機能の向上に効果があるとされるサプリメントです。
詳しくは、脳疲労回復サプリメントとその効果をご参照下さい。

その他

付箋紙やスマートフォンのメモ機能を活用することも1つの方法です。
物忘れは更年期にかぎらず、年齢を重ねるごとに少しづつ進行するため、 面倒ですが簡単なメモを取ることが、記憶を呼び覚ますきっかけとなり、 物忘れ防止に役立ちます。

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