ホルモン補充療法のリスクとは
ホルモン補充療法を受けることで、リスクがあると考えられている病気は、 「血栓(血の塊)による疾患」と「がん」です。ホルモン補充療法は、この2種類の病気の発症リスクを「増加させる」、 あるいは、「影響がない」という論点において、 世界中で様々な実験・研究が行われており、未だ明確な答えは出ていません。
ここでは、ホルモン補充療法のリスクについて、 最近の大きな流れについて、紹介しています。
ホルモン補充療法の効果、種類については、 更年期のホルモン補充療法の効果と種類 をご参照下さい。
ホルモン補充療法リスクが知られるようになったきっかけ
ホルモン補充療法にリスクがある、と知られるようになったきっかけは、 アメリカの国立衛生研究所によって設立された「女性の健康イニシアチブ(WHI)」による大規模調査です。この調査は、ホルモン補充療法の利点とリスクを評価するために、 50~79歳の閉経後の女性16,608名を対象に5.2年間の調査を行いました。
その結果、 「冠状動脈性心疾患」、「脳卒中」、「肺血栓症」などの血栓症および、 「乳がん」の発症率が増加し、「結腸直腸癌」、「子宮内膜がん」、「股関節骨折」の発症率が減少した、 と発表しました。
ホルモン補充療法のリスクと利点
疾患名称 | 増加率 (1を基準, 1以下は減少を示す) |
患者数 | 増加人数 (10,000人あたり) |
冠状動脈性心疾患 | 1.29 | 286例 | +7人 |
脳卒中 | 1.41 | 212例 | +8人 |
肺血栓症 | 2.13 | 101例 | +8人 |
乳がん | 1.26 | 290例 | +8人 |
結腸直腸癌 | 0.63 | 112例 | -6人 |
子宮内膜がん | 0.83 | 47例 | 不明 |
股関節骨折 | 0.66 | 106例 | -5人 |
その他原因による死亡 | 0.92 | 331例 | 不明 |
全心血管疾患 統計 | 1.22 | - | - |
全がん 統計 | 1.03 | - | - |
骨折 統計 | 0.76 | - | - |
死亡 統計 | 0.98 | - | - |
総合 | 1.15 | - | +19人 |
女性の健康イニシアチブ(WHI)による調査結果より
この実験では、当初8.5年に渡る期間を予定していましたが、 ホルモン補充療法の「使用リスクが利点を上回り危険」と判断されたため、 5.2年で中止されました。
一方、この試験における対象者の平均年齢の高さ(62歳)やホルモン補充療法に使われたホルモンの種類(プロゲスチン、プロベラ、プレマリン)とその投与量、参加者の肥満率や元喫煙者率の高さなど、この調査自体のいくつかの問題点も指摘されました。
ホルモン補充療法の病気別リスク
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心臓病、脳卒中
上記、 「女性の健康イニシアチブ(WHI)」の実験において、 ホルモン補充療法は心臓病や脳卒中のリスクを増加させるという結果が得られたことから、 ホルモン補充療法が世界中で敬遠される結果となりました。しかし、最近のデンマークの最近の研究によると、 閉経後すぐにホルモン補充療法を開始した女性において、 「心臓病のリスクが有意に減少した」、という結果が得られています。
また、同様に「女性の健康イニシアチブ(WHI)」のその後の追加実験において、 「ホルモン補充療法は、その年令が極めて重要である」、と発表しています。
追加実験では、エストロゲン単独療法を用いた場合、 冠状動脈性心疾患は低年齢(50~59歳)では0.63とリスクが低下し、 高年齢(70~79歳)では、1.11とリスクが増加した、と発表しています。
その他コクランレビュー(世界展開する治療、予防に関する医療テクノロジー)によると、 閉経後10年未満のホルモン補充療法は、冠動脈性疾患の発生率に影響がないか低下するが、 脳卒中のリスクは高くなる、と発表しています。
ただし、米国心臓協会(AHA)は、心臓病(冠動脈性心疾患)の予防のために、 ホルモン補充療法を利用すべきではない、と警告しています。
また、家族の病歴、早期閉経の女性など、個人により心臓病のリスクは異なるため、 ホルモン補充療法には、医師との相談が必要であるとしています。
乳がん
上記、 「女性の健康イニシアチブ(WHI)」の実験において、 ホルモン補充療法は乳がんのリスクを増加させるという結果が得られています。ただし、その後のエストロゲン単独療法による追加実験によると、 乳がんのリスクの増加は見られませんでした。
また、コクランレビューによると、 乳がんのリスク増加は、ホルモン補充療法のうち、 プロゲステロン類似体(プロゲスチンなど)を摂取した場合に限られ、 bio-identicalプロゲステロン(人間のプロゲステロンとまったく同じ構造のプロゲステロン)には適用されない、としています。
ホルモン補充療法と乳がんの発病率については、 未だ明確な答えは出ていないものの、 ホルモン補充療法のうち、エストロゲンとプロゲスチン(プロゲステロン類似体)ではリスクが増加し、 エストロゲン単独療法では、リスクが増加しない、というのが大きな流れのようです。
卵巣がん
2015年、イギリスのオックスフォード大学が発表した内容では、 5年未満のホルモン補充療法であっても、卵巣がんのリスクが40%増加する、としています。しかし、この研究では、卵巣がんの増加は、 1,000人あたり1人の増加であるため、大きなリスクではないとも述べています。
子宮がん
上記、 「女性の健康イニシアチブ(WHI)」の実験において、 ホルモン補充療法は子宮内膜ガンのリスクを減少させるという結果が得られています。しかし、エストロゲン単独療法は、子宮がんのリスクを高める可能性があります。
エストロゲン単独の場合、子宮内層の成長を刺激するためです。
そのため、現在、エストロゲン単独療法は、子宮摘出を行った女性においてのみ許されています。
経口摂取タイプのホルモン補充療法のリスク
経口摂取タイプのホルモン補充療法は、肝臓に対するリスクがあります。筋肉注射や経皮摂取(クリーム、スプレー、パッチなど)で使われるホルモン補充療法は、 「活性型」とよばれ、そのまま利用できるようになっています。
一方、経口摂取タイプのホルモン補充療法や経口避妊薬(ピル)は、 肝臓での初回通過代謝(肝臓で活性型に変換される)を必要とするため、 肝臓への負担が大きくなっています。
ホルモン補充療法を避けるべき人
ホルモン補充療法を受けてはいけない、あるいは、危険が大きすぎるため禁じられている女性は、以下のとおりです。
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また、ホルモン補充療法中の喫煙は禁止されています。
ホルモン補充療法の利用に関わる国際ガイドライン
イギリスの更年期学会より、閉経後の更年期に悩む多くの女性のために、 ホルモン補充療法が適切に利用されるよう、ガイドラインが世界に向けて発信されています。個人ごとの意思決定
ホルモン補充療法を利用するかしないかは、個人の決断ですが、 適切な決断ができるよう、医師から適切かつ総合的な情報を受信する必要があります。投与量は最小限に抑える
ホルモン補充療法の投与量は最小限に抑えるよう、個々に計算されなければなりません。年次評価
ホルモン補充療法を受ける全ての女性は、年に1度、評価(診断)されなければなりません。期間は制限されない
更年期障害の症状が持続する場合、 ホルモン補充療法の使用期間を、任意のリスクに怯えて制限されるべきではありません。 症状が持続する場合、通常はホルモン療法の利点は、リスクを上回ります。60歳未満では、よりはっきりとした利益とリスクがある
60歳未満の若い患者では、より良好な利益とリスクがあります。早期卵巣不全
早期卵巣不全患者においては、少なくとも閉経の平均年齢まで、 ホルモン補充療法を利用する必要があります。60歳以上は低容量で
高齢の患者においては、 最初は低容量で、理想的には経皮摂取で処方されるべきです。ホルモン補充療法のリスク 先頭へ |
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